いつものように暇を持て余した専業主婦であるわたしはドラクエウォークがてら散歩していた。
目的はないけれど都度(ドラクエウォークの)目的地を設定し、水分補給にお茶を飲みながら西へ東へ。
彷徨い辿り着いたある駅の近くでスーツ姿の青年に声をかけられた。
人畜無害顔のわたしは老若男女に道を聞かれまくっている。
地名も方向もわからないわたしに道を聞くのは完全なる人選ミスなのだが、温和そうな顔に騙されて声をかけてくる人が後をたたないのである。
今回はなんだ?名古屋城の方向か?バンテリンドーム(旧名古屋ドーム)の方向か?
指差すくらいはしてやれるぞ。
(気の利かない小学生みたいな案内「あっちの方です」しかできないが)
彼は道は聞いてこなかった。
かわりに「ホニャララコーポレーションのものですが」とタッチパッドを取り出し、名古屋繁華街に建設されるという投資用マンションの説明をはじめた。
声をかけてきて30秒もたっていない。
すごい早業である。
「すいません……」と声をかけてきてすぐに数千マンの商談。
ホイミスライム おばけキノコ かげのきし
ドラクエウォーク世界のモンスターが脳裏をよぎる。
それはさっきバトルした奴らだ。
よく回る青年の口元にか細いヒゲが数本生えかけている。やわい肌にやわいヒゲ。20代か。いっても30代前半なのだろう。
物価高……
不安な時代だからこそ……
何度も練習したのだろう文言が途切れることなく流れている。
頭金は10万円で…
ローンや家賃収入でペイできます……
有名な会社の名前を出して信用させ金を引っ張るタイプの詐欺師なのか、名乗っている会社の度胸試しなのか、怖くなさそうなおばさんでロープレの練習をしているのか……本当の本気でこんな怪しい投資を勧めているのか…?
行きすがりに数千マンの契約を結ぶ酔狂な人間は存在するのだろうか?
数千マンの物件の頭金が10万円なんて信じる人間がいるのだろうか?
スーツの青年の慣れたセールストークに微かな哀しみを感じながら、わたしはまたドラクエウォークのモンスターとのバトルに戻っていった。
帰宅後Googleで検索してみた。
ホニャララコーポレーションは実在し、ホニャララコーポレーションの投資関係被害者の会も存在していた。
なんだか更に哀しい気持ちになったのだった。